安管・運管機関誌「安全運転」2024年
「モノが運べない時代」
残業規制4業種に施行
働き方改革関連法に基づく時間外労働(残業)の上限規制が4月1日、自動車運送業、建設業、医師、鹿児島・沖縄両県の製糖業の4業種に施行されました。
物流は、「生産者」「メーカー」「卸売」「小売」「消費者」「運送事業者」と多様な担い手が関与するプロセスであり、経済活動、また日常生活にとって絶対に欠かすことが出来ない生命線です。
中でも国内貨物運送の大層を占めるトラック運送業は、少子高齢化に伴う生産年齢の人口減少、また、低賃金・長時間労働などの厳しい労働環境を起因とした自動車運転者不足の問題が深刻な上、輸送の小口化・多頻度化により積載効率は低下しており、既に「モノが運べない時代」が来ました。
平成31年「働き方改革関連法」施行では、自動車運送業等は特例として設けられた5年の猶予期間が経過、しかし運行管理者選任事業所における自動車運転者の労働環境は、他の産業と比べて、未だ低賃金・長時間労働、脳・心疾患の労災認定件数ワースト1の状況にあります。こうした背景を踏まえ自動車運転者の労働条件を全産業並に改善し、国内物流機能の持続的な維持を図る観点から、貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(平成30年 法律第96号)が制定され「標準的な運賃の告示制度」(略称:「告示運賃」)(法附則第1条の3)が設けられました。
「告示運賃」は、自動車運転者の時給を全産業の水準に改善し、法律を遵守し持続的に事業の運営を行う為の適正価格であり、加えて受注者としてとるべき行動・求められる行動として、発注者との価格交渉では、令和6年6月1日施行の新「告示運賃」の公表資料を用いることとされています。
令和5年10月6日政府は、「物流革新緊急パッケージ」を取りまとめました。これは2024年問題の本番が近づいても、荷主・物流会社の対策が一向に進まないことに危機感を覚えた政府が、令和5年6月に策定した「物流革新に向けた政策パッケージ」のうち即効性の高い項目を練り込み、緊急に取組むように指示を出したものです。これを受けて国土交通省の「トラックGメン」は、同11・12月を「集中監視月間」と位置づけ、悪質な荷主・元請けに対する要請・勧告・公表に動いています。厚生労働省の「荷主特別対策チーム」、中小企業庁の「下請けGメン」と連動してヒアリング等も進めています。
令和6年4月1施行の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(厚生労働大臣告示)」(略称:「新 改善基準告示」)違反となる、自動車運転者に不当な労働を強いる自動車運送事業者は、労基法※1・点呼・運行管理者指定講習・整備管理者の年次未講習・過積・道路法に基づく車両制限違反・名義貸・3ヶ月未点検・社会保険未加入等の法令違反が確認された場合は、新処分基準に基づいて営業停止・事業許可取消・当該「運行管理者」資格の取消等、厳しい行政処分が行われます。
また、荷主が一方的に、設定した運賃額より低い運賃で運送委託等を行う等により、下請法・独占禁止法に違反する場合には、これらの法律に基づく処分の対象となるほか、不当に低い運賃額の支払いが運送事業者における過労運転・過積載運行を招く等、荷主の行為が運送事業者の法令違反の原因となるおそれがある場合には、関係行政機関の長と連携し、法附則第1条の2に基づく荷主への要請等を行います。
令和6年4月16日には、近畿地区5つの行政機関(近畿経済産業局・大阪労働局・近畿農政局・近畿運輸局・公正取引委員会事務総局近畿中国四国事務所)としては全国初、「物流2024年問題」の課題解決に向け近畿地域の地方支部局5機関が連携協定を締結したことを同時発表しました。
令和6年5月22日、公正取引委員会が悪質な買いたたきなどは、独占禁止法に基づく「物流特殊指定」で既に規制の対象になっていますが、迅速な措置を可能とするため下請法を改正する方針であることが発表されました。
政府は、6月頃に策定する「骨太方針」に業種を問わず、交渉を行わずに価格を据え置く行為が、実質的な「買いたたき」に該当すると条文に明記することも検討し、価格転嫁を推進します。中小企業庁によると、過去20年の費用上昇分をどれだけ製品やサービスに価格転嫁出来たか示す転嫁率は、27業種の中で「トラック運送」が最下位でした。
これらの物流問題を解決し輸送の安全の確保を第一とし以て、日本経済を停滞させないことは急務であり、実現に向けて皆様のご理解とご協力を深めることが重要と考え、4月号より、関係行政機関の方に寄稿をお願いしました。
労基法※1:労働基準法に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。企業名が公表されることもある為、違反して罰則をうけると採用や事業活動が困難になる恐れがあります。
◆ 4月号は、特集第1弾「岡山運輸支局長 伊藤 雄造様」よりバス・タクシー・トラックの新「改善基準告示」を安全運転管理者事業所の皆様に広く周知する要請をいただき、リーフレットを掲載。
◆ 6月号は、特集第2弾「厚生労働省局長 森實 久美子様」の寄稿文を掲載。
◆ 7月号は、特集第3弾「中国運輸局長 益田 浩様」の寄稿文を掲載。
◆ 8月号は、特集第4弾「経済産業省中国経済産業局長 實森 慎一様」の寄稿文を掲載。
トラック運送の大きな課題である「2024年問題」に適切に対応しつつ乗り切るために、今後も適正な物流に取り組んで参りたいと考えておりますので、ご理解とご協力をお願いいたします。